有限会社 岸本工業登録番号:0026

岸本工業株式会社 代表取締役 岸本哲三さん

 「今月のピックアップ企業」は、六郷土手で高精度な合成樹脂加工を営んでいる、有限会社岸本工業の代表取締役、岸本哲三さんにお話を伺った。  

 岸本さんは元々は工作機械を売る会社に勤めており、自分で機械を動かして「モノ」を作ってはいなかった。樹脂を取り扱う仕事の需要が多く、自分で作ろう!と思い立ち、昭和55年1月、品川で創業。ただ、操業地付近には工場らしい工場はなく、仕事を外注に出すにもかなり苦労したとのこと。

「大田はまわりに様々な工場が数多くあり、いろんな方とお会いでき、それが刺激となって何でも作りたくなる。品川のままだったら、今のようにはなっていないよ。大田に来て本当によかった」と岸本さん。 同社の技術力は他を圧倒する。「他で断られた仕事や首をかしげられてしまったようなアイデアを持ってきて欲しいんです」難しい仕事ほど意欲がどんどん湧いてくるそうだ。「これはね、意識の違いなんだよ。金属では当たり前のことがなぜ樹脂ではできないのか。他の会社の人はできないと思ってそこでさじを投げるが、自分は徹底的に考えて作り上げたい。困っている人が来たら、どんな難しいことでもやり遂げる、それが仕事だからね」 アイデアと工夫、そして根気と努力で難題を乗り越えたからこそ言えるセリフなのだろう。岸本さんを頼って日本各地からお客さんがやってくる。「図面がないけど...」、「他社で断られたけど...」、このような声に岸本さんは奮い立たされる。取引先も数多くなり、現在では原子力発電所に納入を行うなど、高い技術力と信頼を得ている。  

 こう話を聞くと順風満帆のように聞こえるが、バブルの後など苦しい時代もあった。今の急激な不況もそうである。しかし、同社でしかできない高度な技を使った商品が救ってくれている。それが、「プラスティック精密6面加工」である。この6面加工は、本来なら材料をカットしてから仕上げるものを、カットする前に板そのものを板厚公差30ミクロンに仕上げるという画期的な技術。 これはプラスチック素材の特性から、「高精度の板厚仕上げは困難」と考えていた取引先からの要望にこたえる形でできた技術である。この技術でできた「FF板」は従来の板厚公差・面精度・外観の常識を大きく変えるフルフラット・プラスチックボードである。大面積での均一な高精度板厚加工が可能で、板厚公差±0.03ミリ、板厚3.0tから30.0t、最大幅350mm×最大長1200mmまで加工できる。すでに特許も取得しており、±0.03ミリは同社のこれまでの技術力と工夫、そして何よりもやる気が生み出したものである。

 「これまでの蓄積は失敗の連続かな、これをどこで生かすかなんだよね」  この技術も一朝一夕でできたものではない。「もともと合成樹脂で携帯電話の検査治具の製造などを行っていました。検査をするのですから個々の部品の累積誤差が0.1ミリ以下でないいけません。となると、部品一つひとつはさらに高い精度が必要になるわけです。それを加工しながら精度を出していくというのは、樹脂という素材の性質上、かなり難しいらしいですね、でもうちではできるようになりました」

 100年に1度と言われる厳しい情勢の中、同社も少なからず影響を受けてはいるが、気持ちは明るい。「こういう時こそ前向きにならないと!」とは岸本さんの奥さんの弁。取材中も笑いが絶えず、明るい気持ちで前進していくことが大切であることを教えて頂いた。今後、益々の活躍が期待される企業である。